The Spider’s Thread
そこで 犍陀多 は 大きな 声 を 出して、 「こら、 罪人ども。 この 蜘蛛の糸 は 己 の もの だ ぞ。 お前たち は 一体 誰 に 尋いて、 のぼって 来た。 下りろ。 下りろ。」 と 喚きました。
その 途端 で ございます。 今 まで 何とも なかった 蜘蛛の糸 が、 急に 犍陀多 の ぶら下って いる 所 から、 ぷつり と 音 を 立てて 断れました。 ですから 犍陀多 も たまりません。 あっ と 云う 間 も なく 風 を 切って、 独楽 の よう に くるくる まわり ながら、 見る見る 中 に 暗 の 底 へ、 まっさかさまに 落ちて しまいました。
後 に は ただ 極楽 の 蜘蛛の糸 が、 きらきら と 細く 光り ながら、 月 も 星 も ない 空 の 中途 に、 短く 垂れて いる ばかり で ございます。
御釈迦様 は 極楽 の 蓮池 の ふち に 立って、 この 一部始終 を じっと 見て いらっしゃいました が、 やがて 犍陀多 が 血の池 の 底 へ 石 の よう に 沈んで しまいます と、 悲しそうな 御顔 を なさり ながら、 また ぶらぶら 御歩き に なり 始めました。 自分 ばかり 地獄 から ぬけ出そう と する、 犍陀多 の 無慈悲な 心 が、 そうして その 心 相当な 罰 を うけて、 元 の 地獄 へ 落ちて しまった の が、 御釈迦様 の 御目 から 見る と、 浅間しく 思召された の で ございましょう。
しかし 極楽 の 蓮池 の 蓮 は、 少しも そんな 事 に は 頓着 致しません。 その 玉 の ような 白い 花 は、 御釈迦様 の 御足 の まわり に、 ゆらゆら 萼 を 動かして、 その まん中 に ある 金色 の 蕊 から は、 何とも 云えない 好い 匂 が、 絶間なく あたり へ 溢れて 居ります。 極楽 も もう 午 に 近く なった の で ございましょう。
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